終電

数年前、コロナ騒ぎなんて夢にも思わなかったある日の夜、仕事に疲れ終電に揺られながら録音していた深夜ラジオを聞いていると、隣に座ったおじさんが何かを話しかけて来た。

 

おじさん「〜〜〜」

 

やばい、音漏れしてるのかも。

だとしたら深夜ラジオを聞いていることがバレてるということ?恥ずかしいよう。ドキドキしながらすっとイヤホンを取る。

おじさんはイヤホンなんて意に介さず語りかける。

 

おじさん「君は起業しなさい」

 

ぼく『…はい』

 

酔っ払いおじさんはその後も何かを話しかけて来ていたようだけど、伊集院光のラジオを再び聞き始めたので何て言っていたかはもう迷宮入りだ。

一つ言えることは、酔っ払いおじさんとの約束は未だ果たせていないし、今の所果たす予定はない。

中学生日記

思春期というものは実に不安定で、それは傍から見て満ち足りてるかどうかは一切関係のないものなのだろう。

頭が良くて中学生の癖に彼女がいた藤田くんも、ちょっとしたことですぐ怒る、いわゆるキレる若者だった。

悪い奴じゃないので、絶対に人に手を出すことはなかったけど、机を蹴るなどの物に当たることはしょっちゅうだ。

今考えたら冒頭に記した通り傍から見てわからない何かが溜まっていたのかもしれない。

 

ある日、きっかけは何なのかまるで覚えてないけれど、給食の時間にキレてしまった藤田くんはお皿を床に叩きつけて割った。

物に当たるのと物を壊すのは同じようで全然違う。

居酒屋でどれだけ楽しく飲んでいても、コップを割ってしまうと絶対に場は冷める。酔っ払っていてもそうなのだから、ふつうの中学生にとっては見慣れた藤田くんの姿も、そのときはいつもよりヒヤリと凍りついた。

でもそこは悪い奴じゃない(いやそこまで来たら悪い奴か?)藤田くん。自分でほうきとちりとりを持って来て掃除し始めた。冷たい空気で冷めた空気の中、他の子も何人か手伝い始めた。

 

そこで全くその輪に加わらなかった足が早いことだけが取り柄の津島くんはポツリと

 

「俺には食うことしか出来ねえ」

 

すぐ近くにしか聞こえないくらいの小さな声でそう呟いて、津島くんはもりもり給食を食べていた。

その割り切り具合があまりにも潔くて、そして本当に彼は食うことしかしなかったので、冷めた空気の中、僕は一人クスリと笑っていた。

 

その時の津島くんは本当に食うことしか出来なかったけど、嫌な思い出になるはずの出来事をちょっとだけ面白い思い出に変えることも、出来ていた。

黒柴

近所に黒柴がいる。

あまり見かけないので室内飼いだとは思うけれど、時々外に繋がれている。

とても可愛い、よって撫でる。

おとなしい黒柴なので、じっと黙って撫でられてくれる。

けど特に尻尾も振ることはなく。

 

嫌なのかな?

 

嫌がる素振りはないので嫌ではないとは思うけど、喜ぶ素振りもないならば喜んでもいないのかもしれない。警戒してるだけかしらん。

 

「とても撫でられている。良い人?悪い人?わからないけど凄く撫でられている。嬉しい。困る。」

 

くらいの感じだと思っているけど実のところはどうなのか。

満足して撫で終わり、去る瞬間ちらりに後ろを確認すると、全身をブルンブルンと震わせる黒柴の姿。

緊張してたんだろうなあ。

いつの日か、尻尾をフリフリと振り回しながら撫でられてくれる黒柴の姿を見るために、この片思いは続けて行きたい。

遅刻する人

きっとGWを経て5月病に襲われている新入社員が日本中に溢れていることだろう。

しかしながら5月病の前段階、すなわち4月の時点でコケまくっている人も少なからずいるはずだ。

そしてその陰にはその新人に悩まされている諸先輩方がそれ以上にいるのは間違いない。

 

うちも例によってそんな悩みはあり、新入社員の氏、常識に欠けている点やミスは目を瞑るにしても、一番の問題は寝坊による遅刻だった。

 

遅刻はホントどうしようもない。無条件で評価が下がる。いや本音を言うと、遅刻してもどうにかなるのであればそんな世界になってほしい、せめてうちだけでもそんな会社になってくれればむしろありがたいウェルカムなのだけど、残念ながらそんな世界はまだ限られた世界であり、どうやらうちはそうも行かない会社のようで。

とは言え、寝坊による遅刻は誰でも一度くらいはあってもおかしくないミスだし、唇真っ青にして誠心誠意相手が笑っちゃうくらい謝れば、どうにかなるものだ。年長者というものは、叱るよりも許して度量の広さを見せつけたい生き物でもある。利用すべし。

 

でもせめて2回までなんすよねー。

そんなわけで短期間で3回目の遅刻をした氏。

3回目の遅刻の原因は、起きてはいたけどラファエルの動画を見てたら遅刻したらしい。

正直者なのか、それとも本当は寝坊だけどその理由なら許されると思ったのか、どちらかはわからない。

どっちなら良いのかもわからない。どっちも駄目なことだけはわかる。

 

世の中にはそんな状態になってる世界もあるので、やらかして5月病になってる人たちも、やらかされて5月病になってる人たちも、とりあえず落ちる悩みは先送りにして毎日元気にやって行こうぜというお話。

 

今は彼も遅刻をしていません。

数年前の、むかし話。

一つ言えることは、立ち上がらないといけないところに目覚し時計を置いておくべし。

僕はそれで、寝坊癖が治りました。

 

EVE rebirth terror

EVE rebirth terror終了。

このシリーズ、95年にEVE burst errorを元としていくつもの続編があるものの権利の問題から原作者である剣乃ゆきひろ氏が関わっていない上に、氏は既に他界されている。

作者を変えて作られた続編も、魅力的なキャラクターや設定を活かすことが出来ず、キャラ崩壊設定が加わったり(麻薬王まりな)SF部分が破綻していたり(イルカ通訳)と、コレジャナイものがほとんどだった。

ということを踏まえて今作の感想。

 

最高じゃないっすか。

 

原作を越えることはおそらく原作者にしか出来ないけど、原作へのリスペクトがあれば満足する続編を作れるという意気込みが存分に盛り込まれた内容だった。

格好良かった小次郎まりながそのまま格好良く、トロフィーに関わる文章も原作好きな人に向けてあり、BGMもEVE burst errorのものがそのまま使われているのだから何の不満があるものか。

それでいてちゃんと他シリーズの要素も混ぜてくる上、悦楽の学園まで拾ってくる本気度見せられたら傑作と言うしかないです。どうかしてるぜ。

 

そして何より感動したのがネタバレ要素になるのでなるべくは伏せて書くけれど、終盤に出てきたキャラクターの声優。

ただでさえシナリオに感動しているのに、最後まで「EVE burst error」が好きな人に向けて作りきってくれたのが伝わり感動&感動。

 

EVEシリーズで失敗してきた、届かなかった部分に初めて届かせた「EVE burst error」の続編だった。

24年の時を経て平成の終わりにここまでの尽力を注ぎ込み完璧な続編を作り上げ、平成の終わりに剣乃ゆきひろ氏のことを思い出させてくれたスタッフさんに感謝。

 

EVE rebirth terror(イヴ リバーステラー) - PS4

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余物語

物語シリーズ余物語を読了。

西尾維新にとってふとしたアイディアは全て物語シリーズで消化できるのではというくらいどんなエピソードも出来るようになってきたこのシリーズ。

少女不十分の話が実話だと思うほどは若くないつもりだけど、児童虐待西尾維新にとって大きなテーマの一つなのは間違いない。

 

本編の彼女がこれから幸せになれるのかは全くわからないけど、おまけのように毎回掲載されている撫子のストーリーが一種のアンサーでは。

やらかした人が頑張って幸せになろうとしても良いじゃん。

頑張らなきゃ駄目だし、頑張っても幸せになれるかはわからないけど、幸せになろうとしても良い。

そんな未来が見える気がした。

でも少女不十分にそんなことも書いてた気がする。

 

なんにせよ西尾維新の本は厳しくてエグくて突き放すし、他のシリーズはバンバン人が死んだりするけれど、救いと優しさの気配も感じさせてくれるから好きなんだろうなあ。

やらかしたことない人はいない。

人は誰でもしくじり先生

次巻が合計100冊目とのこと。期待せずにはいられないね!

 

余物語 (講談社BOX)

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Chaos;Child -Children’s Revive- 

スピンオフやアフターストーリーで本編に匹敵することはない。そんなふうに考えていた時期が俺にもありました

そんなわけでカオスチャイルドの後日談を描いた今作、「Chaos;Child -Children’s Revive-」読了。

そもそもカオスチャイルドという作品は本編の締め方があまりにも美しいためそれ以上はどう転んでも蛇足にしかなりようもなく、ファンディスクであるLCCも作中で蛇足という表現をしていたがさもありなん。そんなふうに考えて(ry

 

今作の何が凄いって、旧新聞部のメンバーたちをを中心に事件とカオスチャイルド症候群を経た苦難と成長をとても丁寧に描いていて、特に象徴的なのはヒロインズの2人に思いを寄せる新登場人物が出てきてデートまでするところだと思うんすよ。

完全なギャルゲーではないものの恋愛要素があるゲームが原作でこれは凄い。というか普通ならNTRの雰囲気が少しでも出るのは絶対に禁じ手。でもamazonレビューの高評価を見てわかる通り、それがマイナス評価になるどころか説得力を持って事件後の苦難、成長を表現出来ている。

 

加害者家族への偏見、CC症候群後遺症の描き方。特にCC症候群は架空とは思えないくらい描写が丁寧でリアリティに溢れていて、デート中エレベーターの扉が開いたときに一同が身を竦めたエピソードは、作中に登場する「人に話を聞かせるときに必要なのは、物語と具体例」という言葉を体現している。

男の子とデートする。そんな当たり前のことをしただけで日常にある「一般人」との違いの描写があまりにも生々しく、辛くて苦しくて、だからこそ信念を持って言葉を紡ぐ姿が際立ったし、前述したように高評価へ繋がったのだろう。

このエピソードを読んだとき思い出したのが、出身地を聞いたときに、ほんの一瞬間が空いてから「福島です」と言われたことが何度かある。その一瞬の間が何ともやりきれない。おそらく現実にある、そういうことも含み書かれているのは間違いない。だからこそ、有村の言葉はグッと来てしまったな。

 

そして原作で拓留並に可哀想な存在だったあの人にも焦点は当たる。ちなみにそのエピソードは漫画で発売された久野里さんの前日譚に絡められているので読んでいたほうがなお良いですよ。強引すぎる手段も納得出来る、かも。(華ちゃん風)

有村のエピソードも涙腺に来たけど、このエピソードはさらに涙腺崩壊待ったなしだった。

辛くて悲しくて、優しくて愛おしい。

 

からのラストエピソード。

明治神宮で彼女が見た風景は、どこまでもそして美しい。

 

Chaos;Child ?Children’s Revive? (講談社ラノベ文庫)

Chaos;Child ?Children’s Revive? (講談社ラノベ文庫)