思春期というものは実に不安定で、それは傍から見て満ち足りてるかどうかは一切関係のないものなのだろう。
頭が良くて中学生の癖に彼女がいた藤田くんも、ちょっとしたことですぐ怒る、いわゆるキレる若者だった。
悪い奴じゃないので、絶対に人に手を出すことはなかったけど、机を蹴るなどの物に当たることはしょっちゅうだ。
今考えたら冒頭に記した通り傍から見てわからない何かが溜まっていたのかもしれない。
ある日、きっかけは何なのかまるで覚えてないけれど、給食の時間にキレてしまった藤田くんはお皿を床に叩きつけて割った。
物に当たるのと物を壊すのは同じようで全然違う。
居酒屋でどれだけ楽しく飲んでいても、コップを割ってしまうと絶対に場は冷める。酔っ払っていてもそうなのだから、ふつうの中学生にとっては見慣れた藤田くんの姿も、そのときはいつもよりヒヤリと凍りついた。
でもそこは悪い奴じゃない(いやそこまで来たら悪い奴か?)藤田くん。自分でほうきとちりとりを持って来て掃除し始めた。冷たい空気で冷めた空気の中、他の子も何人か手伝い始めた。
そこで全くその輪に加わらなかった足が早いことだけが取り柄の津島くんはポツリと
「俺には食うことしか出来ねえ」
すぐ近くにしか聞こえないくらいの小さな声でそう呟いて、津島くんはもりもり給食を食べていた。
その割り切り具合があまりにも潔くて、そして本当に彼は食うことしかしなかったので、冷めた空気の中、僕は一人クスリと笑っていた。
その時の津島くんは本当に食うことしか出来なかったけど、嫌な思い出になるはずの出来事をちょっとだけ面白い思い出に変えることも、出来ていた。